季節感や自然が感じられる中庭は、注文住宅だからこそこだわれる要素の一つです。中庭には、眺めや趣味を楽しむ他にも、採光や風通しを確保できることや開放感の演出など、さまざまなメリットがあります。

本記事では、注文住宅の中庭の実例や種類を解説します。注文住宅で中庭をつくりたいとお考えの方はぜひ参考にしてください。

採光や開放感の実現に中庭という選択を

中庭のある一般的な住宅イメージ

中庭とは、壁や建物で囲まれた、屋根のない屋外スペースのことです。庭は英語で「court(コート)」と表記するため、中庭のある住宅を「コートハウス」と呼ぶこともあります。

中庭の起源は、古代ローマの時代まで遡るといわれています。古代ローマの邸宅には、必ずといってよいほど中庭があり、主に社交の場として使われていました。

日本でも、京都の裕福な町家に「坪庭」と呼ばれる、1~3坪ほどの小さな中庭がありました。室町時代の武家屋敷にあった日本庭園を町屋に取り入れたのがはじまりです。当時の京都の町家は間口が狭く、建物が奥に続いていたため、室内に風や光を送り込むことが中庭の主な役割でした。

このように中庭は、土地の風土や文化、暮らしの形によってさまざまな役割が付与され、室内からの眺めを楽しむ空間として現代に受け継がれています。

近年の都市型住宅は、住宅が密集したり敷地面積が限られたりするなどで、風通しや採光を確保することが難しくなっています。こうした現代の住宅事情において、中庭という選択は、現代の住宅に明るさと暮らしやすさをもたらしてくれるでしょう。

注文住宅の中庭の間取りにはどのような種類がある?

中庭の間取りの種類

注文住宅の中庭の間取りには、主に以下の3つがあります。

  • ロの字型
  • コの字型
  • L字型

中庭の用途や求める条件によって、適した間取りが異なります。用途や求める条件にあわせて間取りを検討して、理想の中庭づくりを目指しましょう。

ロの字型

ロの字型の中庭イメージ

ロの字型は、住宅の中央に中庭を設け、四方を建物で囲んだ間取りです。

ロの字型の中庭は、外に面する部分がないため、外からの視線を気にする必要がなく、完全なプライベート空間を確保できることがメリットです。また、四方に窓を設置することで室内に効率的に光を送り込めるようになるため、奥行きがある住宅に向いています。

ただし、庭の全方位を囲めるほどの十分な広さの敷地が必要になります。加えて外に接していない分、水はけが悪くなりやすいため、排水にも注意が必要です。

コの字型

コの字型の中庭イメージ

コの字型は、庭の三方を建物がコの字のように囲んでいる間取りです。一方のみが外と接するため、プライバシーを確保しながらもオープンな中庭がつくれます

また、室内から外へ視線が抜けるため、開放感があることもメリットです。外から日差しが直接入り込むことから、家庭菜園やガーデニングも楽しめるでしょう。

L字型

L字型の中庭イメージ

L字型は、庭の二方が建物と接している間取りです。建物がL字のような形になっていることが特徴です。

L字型の間取りは、ロの字型やコの字型よりも外と接する部分が多いため、少ない面積でも開放的な中庭がつくれます

ただし壁が少ない分、外からの視線が入りやすいため、プライバシーを考慮して設計することが重要です。

注文住宅に中庭をつくるメリット

注文住宅に中庭をつくると、以下のようなメリットを享受できます。

室内に光や風を取り入れやすくなる

中庭があると、窓やドアなどの開口部を設けられる部分が増えることで、室内に光や風を取り入れやすくなります。

都市部などの住宅密集地では、隣家との距離が近く、採光や風通しを十分に確保できないことがあります。とくに奥行きがある住宅やワンフロアの面積が広い住宅の場合、室内の奥まで日差しが届かず、日中も暗くなりがちです。

しかし、中庭があれば光や風が複数方向から室内に入り込み、日中は照明をつけなくても十分な明るさを確保できるようになります。南側に隣家があるなどの理由で日中の採光が望めない場合の選択肢にもなるでしょう。

開放感を演出できる

中庭は大きな窓と組み合わせることで、室内に開放感を与えてくれます。

たとえば、中庭の隣にリビングを設けて大きな窓をつくれば、リビングから中庭に視線が抜け、開放的な空間がつくれるでしょう。さらに、窓と中庭を通して向かいの部屋へと視線が抜ける間取りにすれば、遠くまで見通せて、空間をより広く見せられるようになります。

敷地面積が限られる場合でも、中庭と窓を工夫して組み合わせることで、面積以上の開放感が得られるはずです。

プライバシーを確保しやすい

中庭は外と接する面積が少ないため、プライバシーを確保しやすいメリットがあります。壁や建物が外からの視線を遮ることで、周囲の目を気にせず、プライベートな時間を過ごせます。バーベキューやガーデンパーティーも、より気軽に楽しめるようになるでしょう。

とくに、ロの字型の中庭は四方が完全に壁で囲まれているため、プライバシーの保護を重視する方におすすめです。ロの字型の中庭は、防犯面でも優れています。

コの字型やL字型でも、フェンスや生垣を設けたり間取りを工夫したりすることで、プライバシー性の高い中庭がつくれます。

家族と適度な距離感を保てる

家族と適度な距離感を保てることも、注文住宅に中庭をつくるメリットです。

ロの字型やコの字型の中庭の場合、中庭をはさんで部屋を向かい合わせに配置するケースがよくあります。窓を通して互いの様子がわかるため、離れていても家族の気配が感じられます

一方で部屋と部屋が離れているため、生活音が気にならず、家族それぞれのプライバシーを守れるのもよい点です。

このように、中庭のある家では、家族一人ひとりのライフスタイルや生活に合った空間の創出が可能です。そのため、二世帯住宅など、複数世帯で住む場合にも向いています。

注文住宅の中庭の外観・内観実例【山川設計の実例】

注文住宅の中庭の外観・内観例として、山川設計の実例を紹介します。

実例1.光と風に憩うコートハウス

採光を確保した中庭のある注文住宅

中庭をロの字型に囲み、採光と風通しを確保したコートハウスです。中庭に面するリビングに吹き抜けと大きな窓を設け、中庭のメリットを最大限活かせる設計としました。

中庭をはさんだ向かいの棟は平屋のため、空間の奥まで明るい光が差し込みます。

玄関側から見た中庭の様子

玄関を通ってすぐに中庭が目に入り、外までつながるような開放的な空間が広がります。応接スペースをガラス張りにし、来客にも眺めを楽しんでもらえるように設計しました。

平屋の棟のテラスから見た中庭の様子

各部屋は中庭を中心に配置されています。地面をタイルの部分と芝生にわけることで、用途に応じた使い方ができるようにしました。

実例2.ゆとりを楽しむコートハウス

ヨーロッパ風の中庭のある注文住宅

タイルで仕上げたスタイリッシュな中庭が印象的なコートハウスです。

2つの棟で中庭をコの字にはさみ、空間をつなげることで、まるでヨーロッパの邸宅のような住宅が完成しました。

中庭が玄関アプローチの役割もはたしており、長方形に長く続く道が空間への期待感を増長させます。

中庭に面するリビングの様子

中庭に面するリビングは、吹き抜けにして、採光のよさを活かせるようにしました。複数の窓から、中庭の心地よい光が差し込みます。

実例3.水庭のある平屋の住まい

中庭を水庭にした注文住宅(夜)

中庭を水庭にし、ロの字型の建物で囲んだ平屋の実例です。庭の面積を大きくとり、全面に窓を設けたことで、住宅全体が開放感あふれる空間となりました

中庭を水庭にした注文住宅(昼)

日中は、夜の幻想的な雰囲気とは打って変わって明るく爽やかな印象です。水面には太陽の光が反射し、風に揺られて輝きます。

リビングから見た水庭の様子

住宅内のどこにいても、水庭の眺めが楽しめます。屋根が低く、日差しが差し込みやすい平屋は中庭と相性がよい組み合わせです。

実例4.美しく映える庭とLDKでパーティーを楽しむ住まい

アウトドア仕様の中庭がある注文住宅

アウトドア仕様の中庭を、二世帯の異なる建物で囲んだコの字型の間取りです。広々とした中庭では、大人数でガーデンパーティーやバーベキューが楽しめます。

リビングから見た中庭の様子(別棟側)

住宅のメインスペースとなるリビングの向かいには、もう一つの棟があるため、外からは室内が見えません。離れつつも互いの家族の様子がわかるため、何かあったときでも安心です。

リビングから見た中庭の様子(隣家側)

隣家との対角線上にリビングを配置することで、中の様子が直接見えないようにしています。プライバシーがしっかりと守られているため、気軽に家族や友人との時間を楽しめます。

実例5.中庭のあるコンクリート打ち放しの住まい

打ち放しコンクリートの中庭がある注文住宅

打ち放しコンクリートの住まいに中庭を取り入れた実例です。中庭を囲む建物の各面に窓を設け、室内全体に光が差し込むように設計しました。

上から見た中庭の様子

中庭のデザインは、外観と同じコンクリート打ち放しで統一しています。コンクリート打ち放しの風合いを活かすことで、都会的で洗練された印象の中庭に仕上がりました。

実例6.デザイン性で楽しむコートハウス

デザインにこだわった中庭がある注文住宅

デザインにこだわったL字型の中庭実例です。住宅に近い部分にタイル、その他に芝を敷くことで、複数の使い方が楽しめるようにしました。

ゆるやかに弧を描く屋根から空が抜けて見えるのもポイントです。

中庭に面するリビングの様子

中庭に面するLDKでは、正面と横に大きな窓を設け、視界が複数方向に抜けるようにしました。リビング部分の吹き抜けにより、より開放感が感じられる設計となっています。

注文住宅に中庭をつくるデメリット・注意点

さまざまなメリットが得られる中庭ですが、以下のようなデメリット・注意点も押さえておく必要があります。

雨水や湿気がたまりやすい

注文住宅に中庭をつくると、雨水や湿気がたまりやすくなります。とくに四方が建物で囲まれているロの字型の中庭は、奥まで日差しが届きにくく、隅に湿気がたまりがちです。

中庭の水はけが悪いと、苔が生えたりウッドデッキが腐食したりする原因になります。そのため、注文住宅に中庭をつくる際は、設計時点で雨水を流すための排水設備や湿気対策も考えることが大切です。

メンテナンスや掃除の手間がかかる

中庭のある住宅に多い悩みの一つに、メンテナンスや掃除の手間がかかることが挙げられます。

とくに排水口は落ち葉やゴミがたまりやすいため、定期的に取り除く必要があります。窓を設けている場合は、窓の掃除も必要です。

そのため、注文住宅に中庭をつくるときは、掃除方法や将来的なメンテナンスの必要性も考慮して建材や間取りを検討することが重要です。中庭にシンボルツリーや植物を植える場合も、手入れのしやすさや掃除の手間を考えて種類を決めるとよいでしょう。

建築費用が高い傾向にある

中庭のある住宅は、中庭がない住宅よりも建築費用が高い傾向にあります。中庭をつくると壁の面積が増え、その分材料費が上がるためです。

なかでも凹凸が多いロの字型やコの字型は、補強のための工事が必要なため、建築費用が高くなりやすいのが特徴です。外壁に窓を設ける場合は、窓ガラスやサッシなどの設置費用もかかります。

後から返済や費用の支払いで苦労しないために、注文住宅の中庭づくりでは、綿密な資金計画のもと必要な設備、間取りを検討することが大切です。住宅の完成後は定期的なメンテナンスが必要なため、その費用も考える必要があります。

生活動線が長くなりがちである

中庭のある住宅では、建物が中庭を囲うように建つため、移動距離が長くなりがちです。

たとえば、中庭をはさんで向かい側の部屋に移動したい場合、端から端まで歩く必要があり、不便に感じることがあります。中庭を通って移動する方法もありますが、雨などの悪天候時は遠回りをしなければなりません。

快適で利便性が高い住宅にするためには、実際の移動ルートを考えて部屋の配置を決めることがポイントです。具体的なイメージがわかない場合は、簡単な間取り図を書いて1日の生活で通る経路を線でたどってみると、不便な部分がわかりやすくなります。

注文住宅の中庭づくりで後悔しないためのポイント

注文住宅に中庭をつくるなら、以下のポイントも押さえておきましょう。

  • 用途やデザインのイメージをあらかじめ固めておく
  • 生活動線や家事動線を考慮した間取りにする

ポイントを押さえることで、後悔のない中庭づくりができるようになります。

用途やデザインのイメージをあらかじめ固めておく

理想の中庭をつくるためには、中庭の用途やデザインのイメージをあらかじめ固めておくことが大切です。一口に中庭といってもさまざまなコンセプトがあり、設計次第で雰囲気や使い勝手ががらりと変わるためです。

中庭をつくりたいと思ったら、まずはインターネットやSNSを使って情報収集を行い、理想の中庭の条件を整理してみましょう。

具体的には、以下のようなポイントを意識して条件を整理します。

  • 中庭をどのように活用したいのか
  • 中庭に求める機能
  • 使う素材
  • 中庭の形状

あわせて中庭に置く家具やインテリアも考えておくと、デザインに統一感が出ておしゃれな中庭がつくれます

たとえば以下は、「南洋のリゾートホテルのような住宅」という要望を受け、山川設計が手がけた実例です。

リゾート風の注文住宅の中庭

中庭を建物でロの字型に囲み、シンボルツリーとしてヤシの木を植えることで、どこにいてもリゾート気分が味わえる住宅が完成しました。

このように、事前にイメージを固めておくことで、コンセプトのはっきりした中庭を実現できるようになります。

生活動線や家事動線を考慮した間取りにする

実際の生活を想像し、生活動線や家事動線を考慮することも中庭づくりの大切なポイントです。

たとえば、キッチンやランドリーなどの水回りは、中庭をはさまずにまとめて配置することで、動線が楽になり効率的に家事が進められるようになります。

中庭でアウトドアやガーデンパーティーを楽しみたいなら、キッチンから中庭にスムーズに移動できる動線を確保するとよいでしょう。

たとえば、以下の山川設計が手がけた実例は、中庭の大空間を利用してパーティーを楽しむことを想定して設計しています。

開放的な中庭がある注文住宅

LDKに中庭とつながる広い窓を設置し、自由に行き来しやすいよう配慮しました。中庭からキッチンへのアクセスもスムーズで料理を提供しやすいため、人を大勢招いてパーティーが楽しめます。

まとめ

おしゃれな中庭がある住宅のイメージ

注文住宅に中庭をつくれば、採光や風通しがよくなり、快適な住環境を実現できます。住宅密集地や狭小地でも、中庭をつくることで採光や風通しの問題を解消できるでしょう。

中庭で何を実現したいのか、どのような機能を求めるのかを明確にして、理想の住まいづくりを目指しましょう。

中庭の間取り・デザインに迷っている方は、ぜひ山川設計にご相談ください。

山川設計は、高いデザイン力と提案力でお客様の理想を叶えます。中庭付きの住宅の施工実績も豊富にあるため、あらゆるスタイル・デザインに対応が可能です。

無料相談も行っているため、注文住宅に中庭をつくりたいとお考えの方はぜひお気軽にご相談ください。